世界で深刻化している、水不足問題。
アフリカやアジアをはじめとする発展途上国が抱える問題というイメージで、私たち日本人には無関係だろうと思っている方が多いかもしれません。
確かに日本はたくさん雨も降るし、蛇口をひねればいくらでも水が出るため、日本には水が豊富にあるという認識を持ってしまいがちです。
しかし、それは大きな勘違いで、日本でも水不足が深刻化しつつあります。
それを食い止めるために私たちにできることは、まずはひとりひとりが水不足の原因を知り、それに見合った対策を取ることです。
いま日本の資源がどのような状況で、どうすれば水不足解消に向けて一歩ずつ前進していけるのか、ここで詳しく解説していきます。
ぜひ参考にして、私たちが今日からできることを見つけていきましょう。
もくじ
日本における水資源の現状
日本は世界でも有数の多雨地帯にあり、雨に恵まれています。
国土交通省が開示した「平成30年版 日本の水資源の現況」によると、年平均降水量はおよそ1,718㎜で、世界平均である1,065㎜の1.6倍です。
我が国は、世界でも有数の多雨地帯であるモンス-ンアジアの東端に位置し、年平均降水
量は約 1,718mm(昭和 61 年から平成 27 年(1986 年から 2015 年)の全国約 1,300 地点の資
料をもとに国土交通省水資源部で算出)で、世界(陸域)の年平均降水量約 1,065mm(FAO
(国連食料農業機関)「AQUASTAT」公表データをもとに国土交通省水資源部で算出)の約
1.6 倍となっている。
※引用元:国土交通省(日本の水資源の現況:PDF資料)より
雨がたくさん降っていることは間違いありませんが、一方でこんなデータもあります。
一方、これに国土面積を乗じ全人口で除した一人当たり年降水総量で
みると、我が国は約 5,000m3/人・年となり、世界の一人当たり年降水総量約 20,000 m3/人・
年の 4 分の1程度となっている
※引用元:国土交通省(日本の水資源の現況:PDF資料)より
1人当たりの年降水総量(「年平均降水量×国土面積÷人口」で算出したもの)は、およそ5,000㎥/人・年。
これは、世界平均である20,000㎥/人・年の4分の1程度で、雨がたくさん降っているのに、実際に使える水の量が極めて少ないことがわかるでしょう。
では、なぜこのような事態が起こってしまっているのでしょうか?
次で、その原因についてとことん追求していきます。
水不足が深刻化している原因は?
日本の水不足を加速させてしまっている主な原因は、以下の3つです。
- 地形の問題
- 水使用量の増加
- 降雨量の減少
具体的に何が問題なのか、詳しくチェックしていきましょう。
地形の問題
水不足の原因として真っ先に挙げられるのが、地形の問題です。
日本の河川は勾配が急で長さが短い特徴があり、降った雨は短時間のうちに海に流れ出てしまいます。
雨が多く淡水を手に入れやすいという恵まれた環境にありながら、降った雨の確保が難しいという問題を抱えているのです。
そのため、日本では過去に何度も水関連の危機に見舞われています。
なかでも1994年に起きた全国的な渇水は、各家庭に非常に大きな影響を及ぼし、「平成6年渇水」と名付けられるほどでした。
最近も2016年夏に利根川・鬼怒川・渡良瀬川で取水制限が行われた経緯があり、渇水はほぼ毎年のように問題視されています。
問題視しなければいけないのは、渇水だけではありません。
逆に雨がたくさん降りすぎると、河川が氾濫して洪水になってしまうことも大きな問題です。
実際、豪雨による被害は年々増加しており、洪水によって家屋などが流されてしまう悲惨な事態が各地で起こっています。
このような地形に関わる問題は、小さな島国である日本ならではなのです。
地形を変えることは到底難しく現実的ではないため、地形が原因であることを踏まえつつ、いかに工夫しながら水資源を確保していけるかが大きな鍵といえます。
水使用量の増加
雨がたくさん降っても使える水の量は少ない、という状況にありながらも、水使用量は年々増えています。
水の利用用途のうち工業用水や農業用水は毎年ほぼ変わらない使用量をキープしていますが、生活用水だけは増加の一途をたどっているのです。
特に首都圏では、人口の増加やライフスタイルの変化などに伴って、水使用量が増え続けています。
しかし、実際に使える水の量は全国的に見ても非常に少ないため、水不足に陥りやすい傾向にあるのです。
具体的に、どの程度水不足が進んでいるのかについては、以下の表を見ると一目瞭然です。
年平均降水量 | 1人当たり使える水の量 | |
関東地方 | 1,500㎜ | 1,300㎥/人・年 |
全国平均 | 1,700㎜ | 5,000㎥/人・年 |
関東地方の年平均降水量は1,500㎜ですが、関東地方の人口はおよそ4,100万人なので、1人当たり使える水の量は1,300㎥/人・年という計算に。
全国平均の5,000㎥/人・年と比べると、たったの26%しかないことがわかります。
問題は、需要に対して供給量が少ないことだけではありません。
首都圏は主に利根川や荒川から取水していますが、水を安定的に供給する安全度を示す「利水安全度」が、ほかの地域に比べると低くなっています。
このことは、利根川や荒川がほかの河川に比べて渇水しやすい状態であることを意味しています。
それにもかかわらず、関東地方の水需要はどんどん増えているわけですから、すでに危機的状況にあることは一目瞭然です。
水の供給源であるダムに関しても、水不足につながる問題点があります。
現在利根川系には8つのダムがありますが、実質それだけでは安定的に取水することができません。
ダムの数が需要に見合っていないため、そういった環境を整えることも水不足解消に必要不可欠であるといえます。
降雨バランスの乱れ
日本の平均気温は年々上昇傾向にあり、それが降雨のバランスを崩してしまっています。
環境省によるレポートによると、日本の平均気温は100年に1.15℃の割合で上昇しているそうです。
日本の平均気温も年による変動が大きいものの長期的に上昇傾向で、100 年あたり 1.15℃の割合で上昇しており、世界平均(0.68℃/100 年)を上回っています。また、日最高気温が 35℃の猛暑日や最低気温が 25℃以上の熱帯夜の日数もそれぞれ増加傾向を示しています。
※引用元:環境省(PDF資料:日本の気候変動とその影響)より
世界平均でみると100年に0.68℃なので、それを上回るペースで上昇していることがわかります。
これは地球温暖化によるもので、単に気温が上がっているだけでなく、降水に大きな影響を及ぼしています。
ここ数年、ゲリラ豪雨や大雨による被害に関するニュースを目にすることが多くなってきて、「昔はそんなことなかったのに…」と驚いている方も多いでしょう。
気温の上昇によって短時間強雨の頻度が増加し、そのような現象が起こってしまっているのです。
短時間強雨は増えている一方で、無降水日数も全国的に増えてきています。
降水にも変化が現れており、日降水量 1mm 以上の降水日数は減少傾向にある一方、日降水量が 100mm 以上の大雨の日数は増加傾向にあります。アメダスの観測による 1 時間雨量 50mm 以上の短時間強雨の頻度は、さらなるデータの蓄積が必要であるものの、明瞭な増加傾向が現れています。
※引用元:環境省(PDF資料:日本の気候変動とその影響)より
つまり、降るときは災害へと発展してしまうほど必要以上に降り、降らないときは取水制限せざるを得ないほど降らないというアンバランスな状況なのです。
降雨の時期にも問題があります。
日本では6月の梅雨期に降雨のピークを迎え、9~10月の台風シーズンや冬の降雪期にも、水資源の確保が可能です。
しかし、それ以外の時期は降雨が少なく、もしも暖冬などで降雪が少なかったり、台風の頻度が少なかったりすると、安定的な水の利用が難しくなってきます。
このように、季節によって降雨量が大きく変動することは、水不足を引き起こす大きな要因となるわけです。
特に夏や冬に渇水が起こりやすくなっているため、こうした日本独特の気候とどう向き合って対策していくかが重要になってきます。
日本で水不足になると具体的に何が起きる?
日本の水不足が深刻化していることは、すでにお分かりいただけたでしょう。
では、この水不足が続くと、一体どういった制限がかかってしまうのでしょうか?
また過去に水不足となったときには、一体どんな現象が日本で起きたのでしょうか?
ここでは、これら疑問を解消していきます。
では早速みていきましょう!
給水制限20%で起こること
まずは、給水制限20%となった場合を見ていきましょう!
給水制限とは、水の量を減らす減圧給水や、一定時間水を利用できないように制限することをいいます。
まず20%の給水制限を実施された場合、具体的に以下のような制限が、街中や家庭で見られるようになります。
- 決まった時間になると、順次断水が開始
- 高台に住む家で水が出にくい状況となる
- 蛇口から赤い水が出ることも
- 公園やプールなどの施設で水が停止
- 瞬間湯沸器が不良をきたす可能性がある
- 地震沈下の可能性が増大
20%の給水制限でも、こうした影響がでてくるようになります。
では、これがさらに進んで、給水制限30%となるとどうなるのでしょうか?
給水制限30%で起こること
給水制限30%にもなると、20%のときに加え、さらにその影響は拡大していきます。
その具体例は以下の通り。
- 公共トイレが一部閉鎖される
- 断水時間がより長くなり、水の利用時間が限られる
- 全域で水道から水が出にくくなり断水するエリアもある
- 消防活動するための水さえも足りなくなる恐れ
ここまでくると、安全性にたいしても不安を感じるようになるのではないでしょうか?
とくに、消防活動に対して影響をきたすとなると、事態は深刻です。
また過去には、この制限を超えるほどの事例も日本国内で発生しました。
次より紹介していきます。
水不足で日本に起きた実際の事例
以下に紹介する事例は、昭和39年に東京で発生した給水制限と、昭和53年に福岡で発生した給水制限となります。
いくら数十年前とはいえ、今後こうならないとも限りません。
しっかりと事例に目を通し、水への意識を高めていきましょう。
- 医者が手術を行えない
- 断水となり共用栓の設置がされ、そこまで水を汲みにいく
- お米を炊けずパンが主食に
- 水が出るエリアへ移動する家族も
- 洗濯ができないため洗濯物を親戚に輸送
- 給水車が出勤している
- 日本赤十字がミネラルウォーターを空輸してくる
※引用元:国土交通省(それじゃあ渇水になるとどう困るの)より
この事例を見ていただいてもわかるとおり、すでに本来の生活からは遠いものとなっているのがわかります。
共用栓の設置がされたということは、家庭での水の供給は完全にストップされているのでしょう。
普段私たちが、どれだけ水という存在に頼っており、どれほど生きていくために必要なのかがよくわかるのではないでしょうか?
ちょっと頭の中でイメージするだけでも、「水不足」がどれほど恐ろしいものか、お分かりいただけるかと思います。
水不足解消に向けた国の取り組みとは
さて、水不足の危機にさらされつつあることを、国はそのまま放っておいているわけではありません。
問題解決に向けて試行錯誤しながら、さまざまな取り組みを実施しています。
具体的にどのような取り組みが行われているのか、その内容をご紹介しましょう。
「水循環基本法」について
国が行っている水不足対策の根底にあるのが、2014年7月に施行された「水循環基本法」です。
この制度は、健全な水循環を維持・回復させることも目的として打ち出されました。
「水循環」と聞いても、いまいちピンとこない方が多いかもしれません。
雨や雪が降ると、それが河川を流れて海へと向かったり、地下に浸透したりします。
そして、海や陸から蒸発して雲となり、やがて雨や雪が降り…というように、水が地球上を絶え間なく循環している状態こそが「水循環」です。
この循環システムがうまくいかないと、健全な水環境が崩れ、水の確保が難しくなってきます。
そうならないために、健全な水環境を維持・回復させるための法律が制定されたのです。
この法律には、以下にご紹介する5つの理念と9つの施策が定められています。
基本理念5つ
- 水循環の重要性
- 水の公共性
- 健全な水循環の配慮
- 流域の総合的管理
- 水循環に関する国際協調
これらの理念の概要は、貴重な財産である水は適正に利用されるべきで、将来にわたって確保しつづけなければならないということ。
そして、そのための取り組みを、積極的に行うことが重要だということです。
基本施策9つ
- 流域連携の推進
- 貯留・涵養機能の維持及び向上
- 水の適正かつ有効な利用の促進等
- 健全な水循環に関する教育の推進等
- 民間団体等の自発的な活動を促進するための措置
- 水循環施策の策定に必要な調査の実施
- 科学技術の振興
- 国際的な連携の確保及び国際協力の推進
- 水循環に関わる人材の育成
たくさんの施策が定められていますが、大切なことは、
地域の自治体や企業、住民などが一体となって協力しあい、健全な水循環をキープすることを目指して活動していく
ということです。
そのためには、水に関するあらゆるデータを共有すること、連携しながらひとつひとつの施策を進めていくことが必要であると考えられています。
各地で行われている対策について
この水循環基本法に基づき、全国各地でさまざまな取り組みが行われています。
ここでは、その一部をピックアップしました。
熊本地域地下水総合保全管理計画
生活用水のほとんどを地下水でまかなっている熊本地域では、地下水汚染が進んでいる状況を打破するべく、14市町村と県が一丸となって保全対策に取り組んでいます。
具体的には、森林整備や農地保全、再生水利用の促進、節水などです。
これらの取り組みを普及させるために、ホームページや広報誌などで働きかけを行ったり、子どもたちへの教育の一環として水に関する作文コンクールを実施したりといった工夫も行われています。
この施策は、5年ごとに見直され、その達成状況は毎年公表されるしくみです。
うつくしま「水との共生」プラン
福島県には、猪苗代湖や裏磐梯湖沼群など優れた水環境がありますが、それらの恩恵を忘れてしまうほど人と自然との距離が離れつつあります。
良好な水環境を未来へとつなげるためには、幅広い連携のもとで水との共存を目指す必要があるという考えのもと、この取り組みが実施されています。
基本理念は、「水にふれ、水に学び、水とともに生きる」。
森林や農地の保全・整備はもちろん、
- 水の有効利用の促進
- 生態系に配慮しつつ身近に楽しめる水辺作りの推進
- 河川の整備による水の流出抑制対策の実施
など、あらゆる角度から対策が講じられています。
水不足解消のために私たちができる対策は?
私たちの知らないところで、国がいろいろな対策を取ってくれていることに驚かれた方が多いのではないでしょうか。
まずはそういった施策が行われていることを知り、積極的に活動に参加することが大切です。
そして、日々の暮らしのなかでも、水不足解消に向けて私たちにできることはたくさんあります。
どのような対策ができるのか詳しくご紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
「3R」の徹底
まずチャレンジしたいのが、「3R(スリーアール)」の徹底です。
3Rとは、
- Reduce(減らす)
- Reuse(繰り返し使う)
- Recycle(再利用する)
という3つの単語の頭文字を取ったもので、水の無駄使いをせず、繰り返し使い処理をして再生利用することを意味します。
このうち、無駄使いを減らす「節水」は、家庭で一番取り組みやすい項目ではないでしょうか。
たとえば、歯磨きをするときに水を出しっぱなしにしない、髪を洗うときはこまめにシャワーを止めるなど、使う水の量を極力少なくすることは今日からでもできる対策です。
繰り返し使う「Reuse」も、工夫すれば簡単に実行できます。
最も身近な例としては、お風呂の残り湯を洗濯に使うことでしょう。
お米のとぎ汁をお花にあげたり、食器洗いに使ったりすることもできます。
再生利用する「Recycle」は家庭ではなかなか難しいですが、私たちが使って排出した水ができるだけスムーズにリサイクルされるように配慮することも十分大きな対策です。
排水口には、
- 必ずネットを使って髪の毛などが流れないようにする
- 油は排水せずになるべく使い切る
- 油をやむなく捨てる場合は新聞紙などで吸い取ってから捨てる
など工夫できることはたくさんあります。
ひとりひとりが3Rを徹底していけば、地域全体で考えるとかなりの節水になります。
一気にいろいろやろうとすると続かない場合が多いので、「まずはお風呂の残り湯を洗濯に使うことから始める」というように、チャレンジしやすいものから少しずつ実践していくとよいでしょう。
温暖化対策
平均気温の上昇が水不足の原因のひとつであるとお伝えしたように、地球温暖化と水不足は密接な関係があります。
温暖化は空気中の二酸化炭素の増加が主な原因であることに着目し、家庭でできる温暖化対策について考え、実行していくことが大切です。
環境省が推奨する「家庭でできる10の温暖化対策」はこちらです。
- 冷房を1度高く、暖房を1度低く設定
- 週2日往復8キロの車の運転をやめる
- アイドリングを1日5分ストップ
- 待機電力を90%削減
- 家族全員がシャワーを1日1分減らす
- 風呂の残り湯を洗濯に使い回す
- 炊飯ジャーの保温を止める
- 家族が同じ部屋でだんらんし、暖房と照明を2割減らす
- 買い物袋を持ち歩き、包装の簡単な野菜を選ぶ
- 番組を選び、1日1時間テレビ利用を減らす
※引用:全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
これらすべての項目を家庭で実施すると、一家庭につきCO2を年間13%削減できるとされています。
どれもちょっと意識するだけで簡単に実行できるものばかりなので、「温暖化対策」そして「水不足対策」として、ぜひ今日から実践していきましょう。
水不足問題の改善に向けてできることから始めよう
水は、生きていく上で必要不可欠な資源です。
特に日本は手軽にキレイな水が使えるという恵まれた環境にあることから、私たちはつい当たり前のように水を使ってしまっています。
ですが、ここでご紹介したように、水は決して有り余っているものではありません。
無駄使いしていたらすぐに危機的状況に陥り、家庭での利用制限がかかってしまう日が来る可能性もあるのです。
まずは、私たちひとりひとりがその現実と真摯に向き合い、水不足の対策に協力することが求められます。
水と上手に共存していける明るい未来に向かって、できることから始めていきましょう。